温泉分析書の見方(泉質名の決め方)

温泉分析書

温泉施設には温泉分析表が掲示されていると思います。(温泉法第18条により、温泉成分、禁忌症、入浴上の注意などを見やすい場所に掲示することが義務付けられている)

温泉分析書の例

温泉分析書は「温泉分析書(本表)」と「温泉分析書別表」の二本立てになっていますがここでは本表について解説します。

  1. 申請者
    温泉成分の分析を依頼した申請者の住所、氏名が記載されています。
  2. 源泉名及び湧出地
    源泉とは温泉が湧き出す井戸(源)を指し、申請者が申し出た名前と井戸の場所
  3. 湧出地における調査及び試験成績
    1. (1) 調査及び試験者
      現地試験を行った期間の名称と試験社の氏名が記載されています。
    2. (2) 調査及び試験年月日
      現地試験を行った年月日が記載されています。
    3. (3) 泉温 
      源泉から地上に湧出または組み上げられた温泉の温度が記載されています。あわせて測定時の気温が記載されています。
    4. (4) 湧出量
      現地で試験車によって測定された湧出量(または汲み上げ量)が毎分何リットル(l/分)という単位で記載されています。「自然湧出」、「自噴」、「掘削・動力揚湯」のように湧出状態が記載されている場合もあります。
    5. (5) 知覚的試験
      温泉水の色。清濁、味、臭いについて、現地で試験者が行った試験結果が、「微弱」、「弱」、「強」といった度合いとともに記載されています。道具や試薬を使わず人間の目、舌、鼻といった知覚で試されたその温泉の特徴を簡潔に表しています。

      無色、黄色、黄褐色、淡黄色、など
      清・濁 澄明、蛋白石濁、微混濁、など
      無味、酸味、炭酸味、収斂味、から味、塩味、苦味、など
      臭い 無臭、泥炭臭、腐臭、硫化水素臭、亜硫酸臭、石油臭、よう素臭、鉱物油臭、木材臭、など
      その他 ガス発生、沈析物の有無、など
    6. (6) pH値(水素イオン濃度指数)
      温泉水の液性(酸性、中性、アルカリ性)がpH値によって息されています。
      「温泉の分類」pH(水素イオン濃度)/液性による分類を参照して下さい。
    7. (7) ラドン(Rn)
      ラドンとはラジウムの壊変で生じた気体。あらゆる天然水にわずかに含まれていると言われています。温泉中のラドン量を表す単位としてはキューリー単位(ci)とマッヘ単位(M.E.)が使われます。ラドンが温泉水1kg中に30×10-10キューリー以上、または111ベクレル以上、8.25マッヘ単位以上有すると、療養泉の「放射能泉」に該当しますが、一般の温泉水にはごく微量しか含まれていないため、記載が省力される場合もあります。
  4. 試験室における試験成績
    温泉分析は、湧出地(現地)で行われるほか、温泉水を試験室に持ち帰り定められた方法で科学分析を行った結果です

    1. (1) 試験者
      試験室で試験を行った機関の名称と試験者の氏名
    2. (2) 分析終了年月日
      温泉水を試験室に持ち帰り、必要な科学分析すべてが終了した日
    3. (3) 知覚試験
      試験室に持ち帰った温泉水の色、清濁、味、臭いが記載されています。
      湧出地における調査及び試験成績の知覚試験参照
    4. (4) 密度
      試験室に持ち帰った温泉水の水温20°Cにおける1cm3あたりの質量で表されています。二酸化炭素(炭酸ガスCO)などをある程度以上含有する場合は1より小さくなり、また塩分が濃厚なときは1より大きくなります。
    5. (5) pH値(水素イオン濃度)
      試験室に持ち帰った温泉水のpH値。湧出地のpH値と異なる場合が多い。(空気中の二酸化炭素による)
    6. (6) 蒸発残留物
      温泉水1kgを加熱して、水分を蒸発させた時に残った固形物の質量が記載されている。加熱蒸発したときの温度も併記されている。ただし、ここに記載されている分量が温泉水に溶けているわけではない。水分を蒸発させただけではなく、溶けていた気体成分や、熱のために分解して一部機体となって逃げ去る成分もあるからです。
  5. 試料1kg中の成分、分量及び組成
    温泉に含まれる成分が(1) 陽イオン、(2) 陰イオン、(3) 遊離成分(非解離成分)、(4) 溶存ガス成分、(5) その他微量成分に分けて記載されています。

    1. (1)陽イオン、(2)陰イオン
      陽イオン、陰イオンは、塩類(電解質)が水にとけたとき、水の作用でイオン(電気を帯びた粒子)としてバラバラに溶解してできたものです。プラスの電気を帯びているイオンを陽イオン、マイナスの電気を帯びているものを陰イオンといいます。陽イオンの例としては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、鉄イオン、マンガンイオンなどです。陰イオンの例としては、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、硫化水素イオン、硫酸イオン、炭酸水素イオン、炭酸イオンなどです。イオンは、電気量が1単位帯びているとき1価のイオン、 2単位なら2価、 3単位なら3価のイオンといいます。

      また、陽イオン、陰イオンの欄は、「成分名」、「ミリグラム(mg)」、「ミリバル(mval)」、「ミリバル%(mval%)」で構成されています。

      「ミリグラム」欄は、温泉1kg中に含まれているその成分の質量が記載されています。 1mgは百万分の1kgのことですので、この数字はp.p.mにほぼ一致します。「ミリグラム」欄は、温泉1kg中に含まれているその成分の質量が記載されています。

      1mgは百万分の1kgのことですので、この数字はp.p.mにほぼ一致します。

      例えば、見本として添付した温泉分析書の場合、ナトリウムイオン3,546mgにナトリウムの原子量22.99で割り、イオン価数1をかけると154.2mvalとなります。「ミリバル%」欄は、陽イオン、陰イオンそれぞれの合計に対する比率を表わしたもので、これが「泉質」をきめる基本になります。成分・原子量・分子量
      成分と原子量または分子量参照

      ミリバル%が最大のものがその温泉の主成分で、次いで20%以上のものが副成分となります(添付の温泉分析書の場合、主成分がナトリウム(62.11mval%)、副成分がカルシウム(22.92mvol%)となります。)

    2. (3) 非解離成分・(4) 溶存ガス成分
      非解離成分・溶存ガス成分、溶存物質のうち、イオンとならずに分子の形で溶解しているものをいいます。もともと固体のものと、気体のものとがあり、分けて表にしてあります。これらの物質は、酸性の強さ、アルカリ性の強さによってはイオンになるものがあります。例えば二酸化炭素(CO2) はアルカリ性のときにイオンとなり、酸性または中性で分子の形のまま溶けていると考えられています。この遊離成分の表は、1kg中に含有されるそれぞれの成分の「ミリグラム」の枠と「ミリモル」の枠から出来ています。ミリグラム枠の数字を分子量で割り算をすればミリモル(mmol)枠の数字になり、この数字は温泉に溶けているそれぞれの成分の分子の個数の相対的な大きさを表しています。遊離成分は、そもそも固体の物質が分子の形でとけているとき、非解離成分として表示され、陽イオンの量と、陰イオンの量と、さらにこの非解離成分の量との総合計が、「溶存物質計(ガス性のものを除く)」として記載されています。この数値が、温泉法に定められている法第2条別表中の「含有量1kg中の溶存物質(ガス性のものを除く)・・・・」にあたる数値となります。

      溶存ガス成分の表の下には「成分総計」の記載があります。これが実際に温泉中に溶解しているものの総量となります。

    3. (5) その他微量成分
      鉱泉分析法で、分析すべき成分項目中、含有量が、温泉1kg中、 0.1ミリグラム以下のものが記載してあります。一般には、ひ素、銅、鉛、水銀などの重金属が中心に記載されている。
  6. 泉質
    分析結果にもとづいて「療養泉」に該当する場合は泉質名がつきます。泉質は10種類(単純温泉塩化物泉炭酸水素塩泉硫酸塩泉二酸化炭素泉含鉄泉酸性泉含よう素泉硫黄泉放射能泉)に分類されています。なお、温泉法上温泉であっても療養泉に該当しない場合は泉質名が付きません。「温泉法第2条の別表に規定する〇〇の項により温泉に適合する」といった記載になります。また、泉質名のあとに「高張性中性高温泉」⑤⑥⑦のように、浸透圧の分類、液性の分類、温度の分類が併記されるのが通例となっている。浸透圧に関しては「温泉の分類」浸透圧の項目を参照して下さい。
  7. 禁忌症・適応症は別表を参照

泉質名の決め方

鉱泉分析指針では療養泉として10種類の泉質を掲げています。このうちひとつでも該当するものがあれば、泉質名が付きます。泉質名を付けられるのは療養泉のみに認められている。

10種類ある療養泉の泉質名の付け方のルールは以下の通り

単純温泉の表記ルール

泉温が25℃以上で、他に泉質名がつく条件がない場合で、溶存物質の合計(ガス性のものを除く)が1,000mg未満の場合単純温泉となる。

塩化物泉・炭酸水素泉・硫酸塩泉

  • 溶存物質の合計(ガス性のものを除く)が1,000mg以上のものは、泉質名に陰イオンの主成分が表記される
  • 陽イオン、陰イオンの順で表記し「」でつなぐ
    【例】陽イオンの主成分がナトリウムイオン、陰イオンの主成分が塩化物イオンの場合
    ナトリウム塩化物泉
    【例】陽イオンの主成分がマグネシウムイオン、陰イオンの主成分が炭酸水素イオンの場合
    マグネシウム炭酸水素塩泉
    【例】陽イオンの主成分がカルシウムイオン、陰イオンの主成分が硫酸イオンの場合
    カルシウム硫酸塩泉
  • 陽イオン、陰イオンともmval%が20%以上の物質を含有量の多い順に表記される
    特殊成分、陽イオン、陰イオンが複数ある場合は「」で区切る
    【例】陽イオンがナトリウムイオンが62.11mval%、カルシウムイオンが22.92mval%、陰イオンが塩化物イオン82.49mval%の場合
    ナトリウムカルシウムー塩化物泉

二酸化炭素泉・含鉄泉・酸性泉・含よう素泉・硫黄泉・放射能泉

特殊成分が既定値以上である場合
特殊成分 既定値 表記
遊離二酸化炭素 1,000mg/kg以上 二酸化炭素泉
総鉄イオン 20mg/kg以上 含鉄泉
水素イオン 1mg/kg以上 酸性泉
よう化物イオン 10mg/kg以上 含よう素泉
総硫黄 2mg/kg以上 硫黄泉
ラドン 8.25マッヘ/kg以上
50マッヘ/kg以上
弱放射能泉
放射能泉
  • 特殊成分(遊離二酸化炭素・総鉄イオン・水素イオン・よう化物イオン・総硫黄・ラドン)が規定値以上に含有した場合は、泉質名の最初に表記される。
    【例】含鉄(II)ーナトリウムーカルシウムー塩化物温泉
    なお、特殊成分を2種類以上含有する場合は以下のように表記し、特殊成分の順位は原則として以下の順位になる。

      1. 水素イオン(陽イオン)→ 酸性
      2. 総硫黄(HS(硫化水素イオン) + S2O32-(チオ硫酸イオン)+ H2S(遊離硫化水素))→ 含硫黄
      3. 遊離二酸化炭素 → 含二酸化炭素
      4. ラドン→ 含放射能
      5. 総鉄イオン(Fe2++ Fe3+)→ 含鉄
      6. よう化物イオン→ 含よう素
  • 塩類泉ではなく、溶存物質が1,000mg/kg未満で、特殊成分が規定以上である場合は以下のように表記
    【例】単純二酸化炭素温泉
    【例】単純鉄温泉
    【例】単純酸性温泉
    【例】単純よう素温泉
    【例】単純硫黄温泉
    【例】単純放射能泉/単純弱放射能温泉

泉温のルール

  • 「温泉法」で定める物質が規定以上に含有し、泉温が25℃である場合は「温泉
    25℃未満の場合は「冷鉱泉」と表記する。
  • 線音名に併記する「浸透圧・pH、泉温による分類」で泉温に関しては
    • 25℃未満の場合 ・・・ 冷鉱泉
    • 25℃以上34℃未満の場合 ・・・低温泉
    • 34℃以上42℃未満の場合 ・・・温泉
    • 42℃以上の場合 ・・・ 高温泉

例外

温泉法上の温泉ではあるが、療養泉ではない場合(メタけい酸の含有量が温泉の既定値以上だった場合)は、「温泉法第二条に規定するメタけい酸(H2Sio3)の項により温泉に適合する。ただし、療養泉には該当しないので泉質名はない。または温泉法第二条の「温泉」に該当(メタけい酸含有)」


表記例1 泉温52°C ph2.3 溶存物質の合計が1,000mg/kg以上の場合

酸性・含硫黄カルシウム硫酸塩温泉(硫化水素型)
特殊成分   陽イオン  陰イオン  硫黄泉の分類
(低張性  酸性   高温泉)
浸透圧  ph  泉温による分類
  • ※「泉温」は25°C以上ある場合は「温泉」。25°C未満の場合は「冷鉱泉」と表記します。上記は「硫酸塩泉」という表記でも可
  • ※「硫黄泉」の場合、「硫黄型」と「硫化水素型」に分類できますが、「硫化水素型」の場合のみ最後に表記します。
  • ※「浸透圧」、「pH」、「泉温」の分類は、泉質名に併記します。
  • ※「泉温」42℃以上は「高温泉」と表記します。

表記例2 泉温42.1°C pH6.4 溶存物質の合計1,000mg/kg以上の場合

カルシウム・ナトリウム硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物温泉
陽イオン        陰イオン         泉温
(低張性  中性  温泉)
浸透圧  pH  泉温による分類
  • ※ 陽イオンと陰イオンが20mval%以上の物質が複数ある場合は多い順に記載します。
  • ※「泉温」34°C以上42℃未満の場合は「温泉」と表記します。

表記例3 泉温25.4°C pH8.4 溶存物質1,000mg/kg未満の場合

弱アルカリ性 単純温泉
(低張性  弱アルカリ性  温泉)
浸透圧   pH     泉温による分類
  • 泉温25°C以上で溶存物質の合計(ガス性のものを除く)が1,000mg/kg未満の場合は単純温泉
  • アルカリ性の場合は泉質名を「アルカリ性単純温泉」と表記されます。

表記例4 泉温15.1°C pH8.6 溶存物質の合計が1,000mg/kg以上の場合

ナトリウムー塩化物冷鉱泉
(陽イオン  陰イオン 泉温)
(低張性  アルカリ性  冷鉱泉)
浸透圧  pH  泉温による分類

成分と原子量または分子量

成分 原子量または 分子量 成分 原子量または 分子量
H 1.0079 HS203- 113.1261
Li+ 6.941 S2O32- 112.1182
Na 22.98977 NO2 46.006
K 39.0983 NO3 62.005
NH4 18.0383 H2PO4 96.98716
Mg2+ 24.305 HPO42- 95.97926
Ca2+ 40.08 PO43- 94.97136
Sr2+ 87.62 AsO2 106.9204
Ba2+ 137.33 HCO3 61.0171
Mn2+ 54.938 CO32- 60.0092
Fe2+ 55.847 HS 33.0679
Cu2+ 63.546 S2- 32.06
Zn2+ 65.38 HSiO3 77.0916
Cd2+ 112.41 SiO32- 76.0837
Pb2+ 207.2 BO2 42.8088
Al3+ 26.98154 OH 17.0073
Fe3+ 55.847 H2SO4 98.0734
F 18.998403 H3PO4 97.99506
Cl 35.453 HAsO2 107.9283
Br 79.904 CO2 44.0098
I 126.9045 H2S 34.0758
HSO4 97.0655 H2SiO3 78.0995
SO42- 96.0576 HBO2 43.8167